おじいちゃんの密談/
鶴橋からの便り
湯に行くと
湯場を出る前に
僕の耳の中に入っている水を
唇で吸いとってくれた
そのおじいちゃん唇には
昨日、部屋でこけた傷跡があり
いつも歩行用ステッキを握りしめ
布団の中で怯え小刻みに動いている
医者には認知症だと聞かされていた
ふと目覚めたおじいちゃんは
「正治、今日はどうや」と聞いた
「おじいちゃん、今日は無理や」と
僕とおじいちゃんの密談が終わった
それの一カ月後
昭和天皇が亡くなった
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