蜜柑の旅/服部 剛
 
亀有に住む妻の友から
宅急便が届き
段ボールを開ける

ぎっしり入った愛媛蜜柑の
一人ひとりが太陽の顔を浮かべ
手を突っこみ、皮を剥き
(つややかな汁は弾け)
うまい――思わず目を瞑る

ふたたび手を突っこみ
八十歳のお義父(とう)さんに渡せば
麻痺の残る手で、皮を剥き
一つ摘まんで口すぼめ
おいしいねぇ…と呟いた

遠い空の下に広がる
愛媛の蜜柑畑から
亀有経由で
横浜の我が家へ辿り着き
婿(むこ)から手渡した、小さな太陽

痩せたお義父さんのなかに
陽だまりを広げた  





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