小名木川のほとりで/服部 剛
 
はじめて新橋の飲み屋で、あなたと
互いの盃を交わした夜の語らいに
いくつもの言葉の夢がありました

あなたと出逢ってからの
日々の流れのなか
小さな、言葉の芽がようやく
土から顔を出した頃
あなたは未知への旅へ出てゆきました

何日も、何日も、降り続く雨の出来事
なのに
少しの間を置いた
今日
あなたの大きな面影の
ふしぎな明るさが
僕等の間に、漂います

もし、小名木川が――昔々
炎に燃えた哀しみの川であっても
また春の訪れに、桜吹雪の舞う下を
煌めく川は流れゆき

あなたの意思も川となり
明日の物語へ流れゆく

僕等のなかに流れる小名木川
ほとりに佇む旅人の頬を、風は掠(かす)め
水面に乱反射する、笑い声
何処からか ひびく




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