ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ/田中修子
 
られません。どうぞ、忘れて前へすすんであげてください。大丈夫ですか。いま一緒にいてくれる人はいますか」「大丈夫です。ありがとうございます」
 自分を追い詰めすぎないでください、なんてその人は言ってくれてその電話は終わった。

 国家権力とか国の手先、国の犬(犬はとてもかわいい)、とあの女があざ笑っていた警察の人。

 私はいま少年Aのことが理解できなくなった。それでいいんだと思う。

 「はよう死にとう。はよう死にとう」の声が聞こえなくなってきたこの頃、よく、「おてんとうさまに恥ずかしいことしたらあかんよ」とそれだけを毎日毎日静かに教えてくれたおばあちゃんの声が聞こえてくるようになってきた。
 こどものころ、「お天道さま」は「テントウムシ」のことかと思っていた。だから私はむかしからいまから、テントウムシをみるとなんとなくハッとする。
 ジャンヌ・ダルクが作り出したあんまりに大きく広い城の、深い闇の底に寒い寒いと凍えてうずくまる少女A。少女Aが気づかないだけで彼女のまわりを、ずーっと1匹のテントウムシがはたはた飛んでいるんだった。
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