坂/タオル
私は手提げ袋をぶらぶらさせながら
坂をのぼっていた
そうしながらよく似た家々の
それでもはっきりたちのぼってくる個性のひとつひとつに
ていねいなあいさつをしていく
首をわずかに動かす程度のあいさつさえも
家主たちと交わさぬというのに
あの家は窓が開かない
わかっている
あすこの洗濯物はずっと濡れたままだ
ガラスには白々と花びらが貼りついて
バタン、とドアが閉まる
ほったらかしの花水木が今年も満開だ
「まだですか?」
私は窓口にぬっと顔を出して聞く
「終わりました」
と係員の声。
どこから始まったかもわからないのに 終わった
花水木の花びらは掌に似ている
私はまた手提げ袋を持ち直す
胸いっぱいに薄闇を吸いこみ坂をのぼる
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