爪の足/あおい満月
 


爪の泣き声が聴こえて指を見た指は若芽のようにぐにゃぐにゃと揺らいで
私の思考を悩ませた。指の爪には足が生えていた爪の足はとことこと浴槽
を歩いて空間中を旅しはじめた。ごきぶりのように爪の足たちが漂ってい
る。爪の足の足跡は文字になった。しかし私には解読できない。私は床に
ノートを置いてみた。爪の足の文字は意味をなしてきた。それは脈絡のな
い散文詩のようだった。自分が死んでしまって、生んだはずの命さえも奪
われて、その悲しみがはらはらと散る薔薇の花びらになり、私の目を濡ら
した。私は子どもを食べたのだ。その味は生まれたてのチョコレートのよ
うに甘かった。しかし肉の歯ごたえは切
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