花柄/カワグチタケシ
い
待つことは自在に壁を作り
壁の内側で空を見上げる人は
頭上に大きな弧を描く海鳥を見つける
九月、たくさんの雨が降り
十月、雲はふたたび雨をたくわえる
涙の味のしない雨になるまで
彼方より暦を数えて
再会の日を待つ
橋の手前にはひとつの国
橋を渡れば別の国
かつて森を満たした水が両国を分断する
それは歴史ではなく
ひとりの人間の感情の外側で行われる
実体を伴って
分断されたふたつの国は
互いに求め合うことなく
ただ人間だけがそのあいだを行き来する
橋の上には露店が並び
商人たちは輝かしい比喩を売る
会いたい人がいることが
会いたい人に会えないことが
こんなにも痛みになることを
忘れていました
そして繰り返される甘い過ちの数々
橋の上の露店では光る鉱石たちが商われる
壊れやすく美しい鉱石たちを僕らは
繰り返しつなぎあわせては
口を閉ざして
その時を待つ
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