「独り」という概念/あおい満月
 
誰かの声が聴こえた気がして私は耳を澄ます
部屋のなかにも外にも誰もいない。けれど私
は誰かの気配を感じる。鏡に映る私が私では
ないように感じる。そっと手を伸ばせば届く
ような感覚に支配されて私は鏡の向こうに手
を伸ばす。すると、手は鏡をすり抜けた。私
は私に触れた。私の肌は皺だらけだった。そ
こには老婆がいた。やせ細った老婆の私が。
老婆の私は触れるほどに砂になった。鏡の向
こうは砂漠になった。鏡の向こうの砂漠には
いくつもの骸が転がっていた。骸は語りかけ
る。遠く潜在意識の彼方には生きていた頃の
死があるのだと。一秒は過去になる。過去は
死の骨となる。食べるという行為も
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