さくら/小夜
 
まぶたの裏に咲く桜
遠くまでいけなかった足さきが
ようやく幹に触れる

よいのやみ
想い出を負ってしなる腕から
にじみだしていくほの白いあかりは
去っていった人のみちすじを辿るように
尾を引いて

枝分かれしていく
現在形のわたしと
過去形のあなた

散ってはいけないなんて
誰に言えるだろう
風など無くとも
指さきはふるえて
何かにしがみつこうとするのに

ただ
そこにいたのか
生きていたのか
いつも過去形でしか語られない
存在の不確かさのうえに
枝を離れた花たちが
降り積もっていく

目を閉じても
ほの白くあかるい
まぶたの裏に咲く桜
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