夕立ちの想い出/坂本瞳子
 
雨が突然降ってきた
強く強く降ってきた
地面を打ち付けるように
私のこの身体を射すように
強い雨が天から一直線に
降って来た

軒先も木陰も見つけられず
強い雨が降る中を
ただ歩くしかなかった
自転車のハンドルを握ったまま
歩き続けるしかなかった
自転車を捨てることも
転んでしまうことも
できはしなかった

涙が流れていただろう
大声で嘆いていただろう
すべて雨に掻き消されただろう
それでもただ歩き続けた
そうするしかなかった
一直線に打ち付ける強い雨を
この身に受け留めながら

やっとのことで家に着いた
ドアノブを握る手が何度も滑った
やっと開けた扉の向こう側
母親から侮蔑の眼差しが向けられた

夕立ちなんてすぐに止むのに

私の背後で雨は止んだ
夏の夜が始まる前
湿気が立ち込めていた
やるせなさを覚えたあの日
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