そんな日々 /「ま」の字
 
…ない
…がない
意味がない

よるをゆく
鈍行の窓からみた
うずくまる家々の
ふるぼけてくらいひかりや
その灯りのもとの
貧しいご飯
ちいさくてひくいちゃぶ台
ブラウン管のテレビから流れる
成長のひずみをきまじめに伝える声
隣室に 布団を敷きにはいって捻る電球の
ゆれるに従ってゆらめくじぶんの影
家具の影

価値がない

自分以外にとっては 価値がない

だから この記憶は自分にしかのこらない
そして
肉体ごときえる

だれとも分ちあえない 
このことは

ひるひなか
かわいた道をひっそりかえるときも
家でひとり 缶ビールをあけるときも

あじけない
あじけないとおもいながら
あじけない隅っこで飲んで
みんな去ったいま 茫然と 隣の部屋を見る

…ない
価値がない

おれの歴史にも
おれにも

価値がない

そんな日々だ
このごろは
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