ありがとう/斎藤秀雄
 
花が咲いているよ、うわあきれいだねえ、という音声を
私はのせて何メートルか、波うって、波はそこで消えて
しまうけど、私は消えない。ねえ見てあの親子、うわあ
醜いねえ、という音声は私の中を波になって、親子の数
メートル手前で、波は消えてしまうけど、私は様々、見
下ろしててっぺんから一部始終、何でも見える。

親子が花を知覚していて、でも花と花でないものの、区
別、っていうおそろしい暴力を、私は肯定はしないけど、
否定もしないで、包み込みたくないのに、私の中でいろ
いろ現象するからしょうがないじゃない。

ありがとうって言われたがりの女の人が二人、親子の顔
の醜さに吐き気をもよおしているけれどその二人と親子
をどうすれば区別できるのか私には分からなくて、私は
ただ風とか気圧とかいろいろ名づけられるけれど私とそ
の二人とその親子を区別するのはあなた、
ありがとう。

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