鹿の王/やまうちあつし
 
 親しくなった同僚から、自宅に招待された。仕事が終わった後、小一時間ほど電車に揺られていくと、自宅は校外の一軒家である。同居している家族もおらず、気ままな一人暮らしだそうだ。
 飲み物と簡単な手料理でもてなされひとしきり談笑していると、見せたいものがあるという。案内されるままに、コンクリートが剥き出しの階段を地下へと降りてゆく。踊り場を一つ抜けたところに扉が見えた。開けようとすると、そこではないと制止する声。もう一つ下へ降り、今度こそ扉を開ける。するとそこには
鹿がいた。五メートル四方のコンクリートの空間に、静かに佇んでいる。特筆すべきはその大きな角で、鹿本体は大人の腰までぐらいの標準的な大き
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