雨のカラス/松本 涼
雨の中でカラスは
ボロフスキーの創った
偽物みたいに固まっていた
まるでそこから
世界が固まってしまうんじゃないかと
心配になるくらいに
その横顔は
静かな怒りと戦っているようにも
見えなくもなかったけれど
きっとカラスはもっと無機質に
ただ雨の音を吸い込んで固まっていた
僕は少しそのカラスが怖かった
吸い込まれていく雨の音も怖かった
僕はカラスから眼を背けて
家へと急いだ
けれどその日の夜
眠る頃になってやっと
僕が本当に怖かったものは
カラスなんかじゃないことに気づいた
それはゆっくりと雨音を吸い込みながら
僕の中で固まり始めていた
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