YとHに捧ぐ――二〇一七年・渋谷にて――/服部 剛
Youtubeの画面にいる君は、木槌を手
に、鐘を鳴らす。ネットカフェから出た地上
は、若くして逝った君の父親があの日歌った
スクランブル交差点。
ぎくしゃくしたノイズが都会の鍋から溢れて
いる。 跳び越えたい 昨日の自らの影を
勝手に引いていた境界線を。
僕は求める。十七歳の彼が、二十七歳の君が、
真っ青な空を乞い路面から爪先を離す、時を。
海面に跳ねる魚の真空意識を。
TOWERRECORDSで探し回り、君の
CDを見つけた。四角いジャケット写真は、
湖の畔。白いセーターの君は、湖面の遥かな
先をみつめる(透きとおる父親の面影と共に)
再び渋谷駅へと歩く。街の何処からか届く、
誰かの小さな叫びは消防車となり、人群れを
掻き分け去ってゆく
――遥かな空から約束の鐘が鳴っている――
君の始まりの歌をリュックに入れて、新しい
時の中を、僕はすでに歩いていた。
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