夏へ向かう羽/そらの珊瑚
 
透明な羽が浮かんでいた

透きとおっているけれど
それは無いということではなくて

小さなシャボン玉は
虹を載せてゆくのりもの
パチンとはじければ
虹はふるさとへ還る

ふいに風
さざめく声が
頭上三十センチ地帯を追い越してゆく
風は私が載れない透明なのりもの

完璧な蝶々は
すぐに飛び立ってしまうから
運動靴のひもは
いつだって
いびつな縦結びが許されていて
私たちはパジャマのままでゴム跳びをした
くるぶしは対の種だよ
いつか発芽したら
あたしたちは光合成する羽になる
  
そういって彼女は
息を止め
重力を蹴り
昏い放課後を跳んだ

あれが遺言だとしたら
あの羽は彼女だ
角を曲がってしまえば
影を持たない光、光、光まみれて
そこは
在るけれど無い夏


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