無題/ヒヤシンス
白い景色の中で回るメリーゴーランドに人はいない。
何かの気配を感じる朝はいつもより濃い目の珈琲を飲む。
人工的な村は閑散として涼しげだ。
そして私は今日もまた何かに迫られて過ごすのだろう。
喫茶店の古い蓄音機からモーツァルトの弦楽四重奏曲が絶えず流れている。
私は自分の穏やかな心が本物かどうか確かめようとしている。
人との交わりを避けてきた心はわがままで、
時を経るごとに卵の殻は厚みを増してゆくようだ。
漠然とした苦しみを自分なりに解凍してゆく。
頭だけが疲れて人に挨拶もできない。
振り出しに戻った私は再びルーレットを回さなければならない。
薄い雲の裏側から差し込む太陽の淡い光を受けながら
異常に覚醒した頭を大きく横に振り払い私はこの村を出た。
静寂の中、古いメリーゴーランドだけがかたかた時を刻んでいる。
戻る 編 削 Point(9)