トロンプルイユ/キクチミョンサ
 
母国語の外へ
逃げ出したくなるときがある
意味の染みこんだ服を脱ぎ捨てて
なんとなく笑っていたい
それはカン違いのようであればあるほどいい

ぼくの思想や肉体は貧弱でも
それが白日のもとへさらされているのを
想像すると、ことばがぼくを超えてゆくのを感じる
きみは嘘つきじゃないが
嘘に近い何かでできている


きっとほんのちょっとした目の錯覚みたいなものなんだ
夏の暗がりに立ち尽くして愛の断末魔を聞いた
形而上的セルフネグレクト、待てど暮らせど
痛みは痛みのまま、文脈を突っ切って
ぼくの知らない場所へ帰ろうとする


アルファベットのなかにいないひとと
五十音で解き明かせない謎がねむりにつく
ベッドのうえは黙りこくった血だまりでいっぱい
意味の色じゃない赤い赤い「わからない」
笑えない


母国語の外へ
逃げ出したくなるときがある
けれど
痛みだけは無言で
その横を通りすぎて
ぼくの知らない場所へ帰ってゆく
ぼくもまた何かしらの嘘でできている



 
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