雪原の記憶/山人
 
若い隅安は上白姫沢左岸尾根に向かう途中の中腹に待機していた。元森林官の間島洋二と私は、黒禿沢左岸尾根で様子を窺っていた。
 全員が配置につき、勢子の活動が開始された。真山(熊の居場所付近の配置)からなるべく遠いところから勢子を始めなくてはならないので、最初に間島が「鳴り」を入れた。残雪がたっぷり残る山々に、一見のどかな「おーい、おーい」の勢子が響き渡った。続いて勢子鉄砲を数発私が放つ。これものどかに「ポーン、ポーン」と雪山に響いた。やがてイヤホンの無線から慌ただしく「シシ(熊)が動き出した」との無線が入った。それと同時に、今度は真山の下部にいた本勢子たちが「鳴り」に入る。村杉の無線によれば、熊は
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