いにしえの夜の復権‐‐蜂飼耳『顔をあらう水』/kikikirin75
 
朝を迎えて、顔を洗う。一日の始まりの清廉な所作を、ぼくたちが儀式のように行うためには、まずは夜と昼の領分が確定され、かつそのサイクルが正常に作用しなければならない。
しかし果たして、夜はかつての夜のような深淵なる昏さを湛えているだろうか。人類が文明の火を得てからというもの、暗闇は夜の領分から切り取られ続けてきた。月や星のささやかな輝きは絶え(人に踏まれた過去のある月の顔かがやき出す/踏まれた跡もそのままに【103頁「テレビ消すよ」】)、都会に夜景という昼のいびつな比喩が拡がり続ける時代に、いにしえの夜の深淵なる暗黒を、人類が存在しない静寂を、われわれが正確に思い起こすためには非常な困難を伴う。わ
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