綻びの街/黒ヱ
薄臙脂色に錆びた 夜に向かう空
冷める夜営の街 風がなぞって
そんな絶景の中に 悲しい唄の語り部がひとり
物静かに立ちすくんで 遠くを見やり 語りだす
「誰のためでもない この世界で」
そんな もの悲しげな語り頭に 何を感じて
また 何に感化しての物言いか
愛を探しては 愛を語り 偽り踊る
「ひとつだけ 確かなぬくもり」
春は過ぎる 冬は隣り合わせに 橋を架けてくる
渡らずにはいられないもの
春の語り部
「今宵は空が近いな 星も映える夜」
冬の語り部
「また今宵も いらっしゃい」
幸せ 売り買い 何を噤んで(つぐんで)
ひとは ひとと 互いでなければ生きられなくて
ひとりでは 生きてはいけない その証の街
寝息が聞こえる 今日も また想う
さよなら重ねて また明日
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