愛煙家/ただのみきや
 
儀式を終えて 自分を送り出す
時間は男たちをそれぞれの労役へ運び去る


古い映画の中では今でも
いい男といい女が煙草を吸っている
すべては洒落た小道具
指先や手のしぐさ
沈黙に揺蕩うけむりのマジック


からだに悪い 寿命を縮める 癌になる
受動喫煙防止 全面禁煙 煙草の値上げ
追い詰められる絶滅危惧種たち 


「ニコチン中毒? 確かにね
死ぬとか言われても もう自分の一部だから 」


窯で焼かれる日
過ぎた人生をまるで一本の煙草のように燻らせて
愛煙家の魂は
火葬場の煙突の脇の辺り
どこへさらわれて往くのだろう
雪や雨を孕む雲の胎へか
好きなけむりに姿を変えて
風に抱かれて見えなくなった




                  《愛煙家:2017年3月25日》









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