し、についての考察/為平 澪
 
ずちゅうてな、
 (私のこないな姿、しぃにならへんか、
笑う、母の内。彼女は自分の内臓を空にしていく
遺す者、遺され者の、うち、を浄めていく
し、に近づいていく。笑いながら、笑いながら
花が咲く季節に、萎れようとするように
          ※
春の東京は漂流民族
桜前線に乗った引越センターの車と、新分譲住宅のチラシ
駅から徒歩五分の立地条件、新物件には売約済みの赤マル
何世代もこの土地に親と住む人いるのかな
手を繋ぎ合う幼稚園児とママ、年老いてもその手を握ってやれるの
なんてことに横目をやりながら自分を責める
 (私東京なんかで住んだら、死んでしまうわぁ
呟き続けた老いた花は、もう、末期の水しか要らないといった
          ※
新たな新居、新生活応援の大看板
寂れて止まっていく家をかかえた私たちには
宛もない掃除が残っていて
何か黒い連鎖から離れられない二人
都会はテレビの画面から桜前線を伝えていて
前線の通過した家に残された花びらはゴミになるのだと
呟く母の肩を 抱き寄せる

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