きのこの刺繍/初谷むい
 
さだめがきのこの刺繍しか食べられない女の子だって知ってからも、僕はさだめのことが好きだった。さだめは大学二年の春に今まで好きだった牡蠣のアヒージョも肉巻きアスパラもスイカもナタデココも塩パンもぶどうゼリーも全部食べられなくなって、代わりにきのこの刺繍を一生懸命噛むようになった。さだめと付き合ったのは三年生の夏だから、かれのれ一年以上きのこの刺繍で生活をしてきたきのこの刺繍の栄養だけで身体のほとんどができているさだめを僕は好きになったわけだ。きのこの刺繍はなんでもいい、ただそれがきのこに見え、そして刺繍だったら良いのだ。さだめはもはやきのこの刺繍以外のものを口に含むと全身から桃色の、おそらく血が混じ
[次のページ]
戻る   Point(1)