帽子のほころびるとき/田中修子
 
膨らんできた
はくもくれんの
銀にひかる繭のような葉

わたしのはらのなかで
懐かしい男と猫とあのうちは
ことばをうけて赤ん坊になり
ホトホト
うみ落とされてゆく

ていねいにガムテープで
ひびわれをなおされた
菊のすりガラス
その向こうの朝は
おぼろに白くて目を打たない
瞼は
眠たく撫でられた

わたしの渇きは
男と猫とうち
すべて丸のみをしておさまった

うわばみのわたしは
帽子のふりをして
風にのってフワリと泣く

ひっかかった桜の枝のつぼみは
やがての春を妊娠していた
オギャアと咲けば
すべてがほころびるとき
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