風に吹かれて/ヒヤシンス
 

 遠く南アルプスを望む高原で私は風に吹かれている。
 風は私に留まり、そして通り過ぎる。
 風は私の人生を肯定する。
 私の生きている意味さえも。

 風を信用していない私は少し戸惑う。
 まるで人が人を疑うように。
 捕らえようのない風は知らん顔して私の頭を撫でてゆく。
 不思議と心が癒されるとはどうしたものか。

 騙され続けた人生だった。
 いつからだろう、人を疑うようになったのは。
 真実を確信出来ないこの思いは不健康だ。

 ならば信じよう。
 全てはこの風のせいだ。
 見事に咲き乱れたキスゲを憎らしい風が誘惑している。

 
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