観覧車/カワグチタケシ
 
れた新緑を朝日が照らし
パイプオルガンの讃美歌が
薄く開いた窓から入ってくる

五月、雨の古都
雨音は竪琴
壁画をめぐる夜の小旅行

六月、忘れられた季節
何もない空
誰もいない街


***
遠い時間の果てに流れるロンド
花火よりも高く
海鳴りよりも低く
葉ずれよりもかすかに

鼻声のひとも
飴細工職人も
真っ赤なフードをかぶった少女も
同じリズムでまわる

海辺のガラスドームで
観覧車を見上げて
恋人たちはパンを食べている

昇ってしまえばあとは降りるだけ
観覧車は僕らを
もといた場所に連れもどす


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