黙らぬはずの沈黙/末松 努
 
まだ無名の星に
光が差しはじめた頃
静寂な空気の語りと
無重力の宇宙の波動は
無音を破ろうとして
互いに感覚の符号を送り続け
やがて瑠璃色となった惑星に
言葉を招き入れた
人間たちは歓喜し言葉が生まれ
文字は黙読を呼び
視線は眼力の無線となり
表情に感情の絵を描いたかと思えば
重なり合う体に恋愛を吹き込んだ
声に出して伝えることは
慎ましさを失う象徴となっていたが
携帯電話でしゃべりすぎた代償で
叫ばなければ食われる時代となった
黙っていなかったはずの沈黙が
いま
黙りはじめている

理想は現実に薙ぎ倒され
連帯は排除によって下水管へ流された

イウコト ヲ キカナケレバ
イキ ガ デキナイ
コキュウ ハ トメラレ
コエ ガ ダセナイ
チンモク ハ シンダ

ニンゲンたちはいま
高貴な沈黙に酔うことも
無音の音楽に触れることも
言葉なき交歓に溺れることも
そして
声なき声を発している者へ
声なき声で答える温もりも
沈黙の中へ落とし込み
暗黒の世界へ閉じこめるのを
ほくそ笑みながら
静かに見送っている
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