夢夜、一 「灰色病と、花輪にうずもれるボルゾイの長い首」/田中修子
 
食い、花の手入れをし、かなしい顔をした犬に花の首輪をつけ、眠り、起きる。それだけの毎日じゃよ、しかし、お前さんには合っておるような、そんな気がしてならぬのでな」
「お引き受けします」
私は老人の手をつかんだ。年月が刻まれてかたく、あたたたかく、働き生きてきたことを証明する、シミの浮き出た手。老人は満足そうに笑った。あたたかい茶色の目がカラメルのようにとろりととろける。
 そうして老人はふっと透明になり、消えた。あとには老人の着ていた服だけがパサリと落ちる。

 白い犬たちが足をとめた。
 そして三回、声を揃えて遠吠えをした。老人を見送ったのだ。また走り出す……。

 あれから何十年
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