一度脱いで、またはく/由比良 倖
 
加えたものだ。たろやんが家にきて、たろやんがしていることと言えば、ああやってずっと小説を書いていることぐらいだ。たまに部屋に入っていくと、ぼーっとしているときがあって、部屋は真っ暗だからたろやんは見えないのだけれど、たろやんの湿った匂いがして僕は秘かにそれを吸い込んでたろやんたろやんと言う。たろやんは電気を付けるとすごく怒るから、僕は廊下の光で部屋の中が浮き上がってくるようになるまでしばらく目を瞑る。たろやんは机に俯せていて、「えんぴつ」と言う。
「え」
「鉛筆のにおいがして、びっくりして起きたら机の上に鉛筆があって、私、びっくりしてしまって、それ、捨てちゃった。ごめんね」
 僕は台所の天井
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