レモンジュース・ダイアリー(2)/由比良 倖
 
作るのと同じように丹念に、遠い場所から長い時間をかけてやってきたのであろう、古くてあたたかい響きのする木で作られている。私は、喋るのよりももっと自然にピアノを弾く。
城井さんは、しばらく譜面代に置かれた私の自筆の楽譜を見ていた。「とてもいい曲のようだ」と言った。城井さんは楽譜は読めない。私は「弾きましょうか?」と言ったが彼は「いや、長居しすぎた。悪いね。でも聞こえてくる君のピアノの音はとても好きだ」と言った。
城井さんは出て行き、私はしばらくの間、ギターケースを眺めていた。それから窓を開けた。ずっと上のほうに街が見えた。Yがギターを意図的に置き忘れて来た場所だ。そうすることで彼はここでの生活に
[次のページ]
戻る   Point(1)