レモンジュース・ダイアリー(2)/由比良 倖
る非常灯の、緑色のひとが走っている方向を辿っていけば、そこに着く。ラウンジにある案内係のデスクは、壁をくり抜いて造ってあって、その向こうのベッドで零度が伸びをしていた。シーツをくしゃくしゃにして身体に巻き付けている。灰色の髪の間から耳の先が覗いていた。
「おはよ、零度」
「おはよう、透子さん」
零度は小さなくちをとがらせて涼しく呟いた。少し寒いくらいの声だった。瞳孔がきゅっとちぢんだ目で私を見上げた。ふと笑って、
「悪い夢を見ました」
それから先は続けずに、丈の長すぎるパジャマの裾を引きずって壁際の冷蔵庫に歩いていった。わざとそうしているみたいにゆっくりとした動作で。冷蔵庫が開くと、零度
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