レモンジュース・ダイアリー(1)/由比良 倖
。僕を突き抜けそうなくらいすれすれの場所を抜けていく。頭上から無菌的な空気が無遠慮に顔に吹き付けてくる。
「寒いですか?」
運転手が言う。奇妙に中性的な声だ。固そうな眼鏡をかけた横顔が、街の光に青く染まっている。街? ラジオからは、エンジン音を幾分か優しくしたような音が流れ続けていた。
僕はシートに座り直し、窓ガラスを人差し指で撫でる。途端、カタカナが頭の中で爆発するような、断続的な閃光が起こり、僕は目をしかめる。
「気をつけて下さいよ」いつの間にか、運転手の手には無煙葉巻が握られていて、甘酸っぱいような匂いが漂っていた。「窓を開けたら、あんたなんか一秒で死んじゃうよ」
「それはどうだろう?」
僕はドアロックに指をかけた。運転手は、バックミラーで僕を見ているようだった。僕の方からは彼(彼女?)の眉の動きしか見えなかったけれど。ところで僕はどこに映っているのだろう? ドアが開いた。
僕は一瞬にして光にさらわれてしまった。
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