レモンジュース・ダイアリー(1)/由比良 倖
で一番楽しいことのひとつだ。世界で一番楽しいことは、ふたつある。
ベルが鳴った。清廉な音だ。僕はドアの前まで歩いていって、「開いてる」と言った。
扉がゆっくりと開かれて、透子が立っていた。冷たい煙を纏っていた。さっぱりとしたシャツを着ている。彼女は軽く微笑んで、僕はまた椅子に歩いて戻った。彼女はなにも言わずに入ってきて、ソファに収まった。古い古いソファだけど、これ以上のものは無い。そこに座っていると、透子は古い家具みたいだ。ぼくは椅子の背をぎしぎし言わせた。
「持ってきたよ」と言って、彼女は小さな紙袋を掲げた。これを待っていたのだ。僕は腕を伸ばしてそれを受け取った。中身を確認して、僕は安
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