舞い上がる灰/田中修子
 
うえの部屋の犬はたぶんパグで
飼い主は
水商売の女の人じゃないかな

このごろ寒くなってきて
女の人仕事にいかなくなってきた
誰かと電話をしたら
いつも怒鳴りあいになり
さいご泣いている

「ね、わたしもなんだか涙が止まらないの」

冬だからね
だからねむりなさい

昔の貧乏人は
よくねむって節約したもんだ

ずいぶんと白髪の増えて
すこしばかり二重顎になった
あなたがわらって

尻尾曲がりの猫がナーォと鳴くと
上の部屋のおそらくはパグが興奮して吠え
ペット可物件のこのアパートはずいぶんとにぎやかだ

廃屋とともに私の胸を
赤く燃え盛るように焦がしたニ十歳上のかつての恋人は

いま わたしに

「おとうさん」

と呼ばれ
舞い上がる灰のように白くわらう
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