お見送り/六九郎
 
、使い古された流行語、削除された住所録、投げ捨てられたものたちが私の横をゆらゆらと流れていく。
みんなに最後の挨拶をせねばと思うが、濁った河の水に何度も顔を洗われて声は出せても言葉にならない。
私の指は冷たく強ばり、もう私の身体の一部であることをやめてしまう。
ぬるぬるの木の枠の感触ももう分からない。
いまは両目だけが私に動かせる最後の器官になる。
私の身体はゆっくりと岸を離れ、丸く膨らんだ腹を上にして河をくだり始める。
私の頭は浮いたり沈んだりを繰り返す。
その度に青い空が見えたり見えなくなったりする。


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