お天道様ノ声―天守閣跡地にて― /服部 剛
紅葉の葉群は節々に
詩(うた)を織り成し、風にさやぐ
皇居の午後
天守閣跡地の畔(ほとり)で
古い木目のベンチに腰を下ろす
巨きな四角い石垣の隅に立つ、優しい松の
頭上に広がる水彩画の空から
照らす――ひかりに目を瞑る
背後の木々の緑から
小鳥等の詩声(うたごえ)は響き
両手を器にした、僕の
体の隅々にまで
ひかりは沁み渡ってゆく
振り返れば、人並に苦労して
時にとぼとぼ…しょっぱい涙を零しつつ
ここまで歩いてきたが
この世に…まだまだ悲嘆は隠れているが
今日僕は、初めて
日の本の国の道を味わい
ゆっくり歩み
自らを徐々に回復しながら
――ひとつの予感が芽生えたのです
あの天守台跡の上に広がる
初冬の空から世を照らす
お天道様は
無音ノ声で、一人ひとりの国民に
今日も囁きかけている
言葉にならぬ、地上の生の歓びを
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