とけたくろと/Seia
 
コップの外側に付いた水滴の
均衡が崩れた瞬間を
ただ首を傾けることしかできず眺めているとき
別になにかがうまれるわけでもなく
なにかをうしなうわけでもなく
そうしたすぎゆく時間に
ひやりとする

机の縁からころげ落ちたボールペンが
床にあたった
そばから溶けていく
光沢のある黒い液体に
指をふれさせると
そのまま手首まで(とぷん)と入ってしまった

底なしの泉から肩ごと引き戻せば
手首から先に付着したものを
いやおうなしに確認することになる
特に触覚は働いていないのだけど
嫌な予感の群れが
そこらじゅうを走り回る

一旦落ち着いてみよう
浮いている腰をおろして(あぐらでもいい)
楽な体勢にもっていこう(深呼吸を数回)
しばらく目を閉じてみよう(これで世界は変わってるはず)
暗闇に飽きたころ目を開けてみると
世界は変わっていませんでした
すくなくとも半径数メートル以内では

ひとくちも飲んでいない
コップの外側に付いた水滴の
均衡が崩れた瞬間を
ただ首を傾けることしかできず眺めている
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