満月への返歌/由木名緒美
 
脳の誤作動だったのだ
満月がこんなにも喝采されるのは
月は暦を変えられないことの杭を打ち込まれているかのようで
好きになれなかった

あなたの中に住まう狩人は
おぼろげな兎の陰に矢を放てますか

世界を遍照する太陽よりも
月は闇夜の番人のようで
何事かを囁くその満ち欠けに
心はいつも胸騒ぎに急ぐ

東の窓辺に収まった円が
知らぬ間に南の小窓へと移動する
月 地球 太陽が
奔放な足並みで軌道を描き
自己憐憫に傾斜する夜はいつもその軸に振り回されていた

月へ飛ぶことは可能だろうか
今宵、こんなにも重力が消え失せている
朝までのささやかな冒涜の旅
自傷がひばりとなって飛び立つ時
その鳴き声は私の狂喜となって
大陸を横断してゆくのだから

冷ややかな満月の亀裂に
悲鳴を上げる必要はもうどこにもないのだ
柔らかな引き潮が
あたたかなシーツへと匿ってくれる
だから三日月には微笑みがよく似合うのでしょう
いつかその円周を恐れなくなる時
私ははじめて夜の瞳孔に
満月の海を映し出せるのかもしれない
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