横須賀の駐車場がみる廃屋のゆめ/田中修子
わたしに命をふきこんだのは
横須賀の廃屋のようなうちに猫と車と住む
がんこなかんばん屋の男だった
かんばん屋と猫と車はそのうちで
消えたがる女をなんにんも生かし
わかれをつげてきたという
かんばん屋が付き合ってきた女たちの中でも
いちばんの消えたがりのわたしは
そこにいちばんながくいついた女だった
ドアは壊れていて誰でも入れるから泥棒は素通りする
お勝手の菊の模様のすりガラスは割れていた
床は腐っていて踏み抜きそう
たたみはひざしにやけすぎてあまいにおい
風呂はとうに壊れてシャワーがぎりぎりつかえるだけだ
雨が降ればうちのなかにも雨が降る、風が吹けばうちの
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