旋律/鷲田
 
リビングに置いてあるピアノから
旋律が空間に流れる時
時空への旅はどこに到達しているのだろう

思い起こせば何時も青春が首を擡げ
現実に起きていることと
過去に起きたことの記憶が
脳の中で融合している

私がここに到達するまでに
赤子は少年に変わり
少年は青年に変わり
青年は大人に変わっていった

夏が一つ終わり
春が二つ来る頃
自由に冬は何時もの景色を見つめて
秋が終焉を宣言した

人生とはベクトルをなぞる一直線の時空であるが
記憶と想い出に着色された一個の甘菓子でもある

365個の日常と
80年の道程を人は人生と呼ぶ
浮いては沈む波が砂浜へと語りかける
無言のまま、無音のまま

リビングに置いてあるピアノから
一つの旋律が奏でられている

いや、それは旋律と呼べる程のものでなく
音と音が鍵盤に叩かれた遊びである

未来の私の分身、私の娘が
新たな一つの命を無邪気に叩いている

時空は繰り返され
やがて一つの歴史という物語が誰かによって語られる
音はそこで優しく鳴り響き
旋律は何時も空間を肯定する
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