Miz 23/深水遊脚
った。訓練時の挑発に差別的な言葉を混ぜることは、私は少なくとも悪いことだと考えていた。でも法も内部規則も直接それを禁止していなかった。せいぜい模擬戦の終わりに指導し、ひどい場合には警告を与えるくらいだった。柏木くんのような常習犯は何度でもそれを繰り返す。先日の模擬戦でライトストリングで拘束して拳で突いたのもそんな苛立ちからだった。本当はよくないことで、反省している。こんなふうにいちいち葛藤するのも鬱陶しい。私も春江さんのように、訓練時の必要悪と割りきればよいのだろうかとも時々考える。でもいまの青山くんをみていると、それはやはり間違いなのだと思う。こういう心のうちは誰彼構わず打ち明けるわけではない。だからあまり知られることはない。知る人があっても青山くんの悔しさをそのままに知るところまでは行かない。そうして多くの人にとって、痛みはなかったことになるのだ。
軽い気持ちの言葉で青山くんの傷を抉ってしまったことを私は詫びた。青山くんは、話すべき人にはきちんと話しておきたい、私は話すべき人のひとり、そう言ってくれた。
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