透明/鷲田
 
少年が空を見上げた方角には
青い空中が蒼くなっている
客観が主観を覆し
世界はありのままの美しさを失っている

空が言葉を語るのは
内包された心の中
失語症と宇宙は交信している
存在の力を過小評価する社会

少年の中の願望は歪みを形成し
幸せという感覚に酔いしれる
季節は刹那というリズムとダンスする

それは秋が到来する頃の
虫の鳴き声の響き
チロ、チロ、チロ
チロ、チロ、チロ

空は今、何故か紅色だ
赤面症に苦しむ少女のニキビのように
夕暮れの空中に響く
あらゆる音は
行為に依存する虚しさ

赤子はただそこに存在するから透明だ
世界は今、透明を求めている
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