遺書/田中修子
 
わたしはよく
遺書をしたためる

これから冬がきて
息凍るころ
体もしゃりしゃり
うごかなくなる
お布団に張り付く日々

いただいてばかりでいきていると
屋根つきぬけて
そらにかえりたくなっちゃうの
誰にでも一等の
金色おほしさまになれたらな

そんなときに
遺書をしたためる

ぐしゃぐしゃ書きだしたさいごのさいごに

ありがとう

しかでてこなくなる

滴るところを真っ暗にしてた涙
そのうちに
澄んできて
ひかりだす
涙まみれの遺書がきらきら
ありがとうをしたたらせる

お父さんが買ってくれた花柄ワンピース色、風にふわりと

お母さんと飲んだメロンソーダ色、ベロにしゅわりと

あなたの飼い猫の茶とら色、しっぽゆらりと

くしゃっと投げ捨てたゴミ箱から虹がかかる
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