火の山峠 2016/たま
 
次郎さんの家は、火の山峠へとつづく
坂道の途中にあって、そのちいさな車
は、登るときも下るときも、まるで不
機嫌な家畜のように、激しく四肢を踏
み鳴らすのだった。
直径八キロ余りの島の真ん中に、レコ
ード盤の穴のような火口があって、ア
ップダウンの勾配と、ゆるいカーブの
つづく海辺の道は、この島の輪郭をほ
ぼ正確に描いていた。次郎さんの案内
で半日かけて右回りに島を一周したあ
と、翌日は左回りに半周して、そこか
ら先は、右も左も同じであることに気
づく。さらにこの島には海のある方向
と山のある方向しかなくて、西も東も
見つからない不安を抱くことになる。
東京から一八
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