木槿/あおい満月
恐る恐る目を開けると、
カーネーションだった花が、
一本の木になって、
風のない部屋で凪いでいた。
赤い葉に煌めきながら、
何かが映し出されている。
(がんばってね、いってらっしゃい)
(帰りに珈琲を買ってきてね)
にこにこしている母親の姿だった。
お母さん、
私の頬を熱いものが伝い流れた。
すると大樹の赤い葉から、
金色の滴が雨になり降ってきて、
私は金の海に溶けるように満たされた。
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(どうしたの?もう時間よ)
聞き覚えのある声に我に返り、
気がつくと私は空の器を前にして、
呆然としていた。
慌てて支度をし、
外へ出る。
秋晴れの朝は少し寂しい。
冬に近づくにつれて、
寂しさは増すのだろうか。
うすら寒い風のなかで、
木槿の花が揺れていた。
あなたの微笑みに少し似ている。
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