木槿/あおい満月
 
気がつくと、
一面真っ白な部屋のなかにいる。
部屋には窓一つない。
空気がこもっている。
部屋中に白い音がする。
天井に向かって手を伸ばすと、
目には見えない皮膜に触れる。
シャボン玉の透明な壁に似たそれは、
指圧になってぐいぐい背中を押してくる
五感が塞がっていく。
意識だけが一本の糸になって、
現実を繋いでいる。



誰かの声が響く。
女性の声だ。
私には母親の声だとすぐにわかる。
(あんたになんて、なんにもないわ)
(詩の話はしないでちょうだい。
仕事の話もね。私は嫌だから。嫌いなの)

電話を勢いよく切るように、
母親は突きつけてくる。

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