その都市 2/非在の虹
 
いつとも知れない遠い過去に、
激しい戦争があったという。
その都市は戦場になったという。
ところがいかなる理由で戦争が起こり、
どういう経緯で戦争が終結したのか、
その都市の不可知性は徹底しており、
何の記録もない。
戦争が終わったのち
都市を訪れた者は息を呑んだという。
都市の外観には何の変化もなかったのだ。
砲弾に崩れた壁は一か所もない。
だけれども内壁は炎に焼けただれ、すべては破壊され尽くしている。
建築の内部構造は一切の痕跡をとどめていないのだ。

いかなる兵器が、この悲劇を作り出したのかはわからない。
戦争は、あらわな悲劇によってその傷跡を癒すのだ。
隠された悲劇は、一見存在しないかのような悲劇は、
そののちもあらゆる人間を破壊し続けるのだ。
巨大な空虚を包み込んだ都市が、
太陽の陽を受けて光り輝く外面だけの、蝉の抜け殻のごとき都市が、
永遠の美しさを偽って存在している。
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