あの町とこの街/かんな
 


明かりの少し落ちた町で暮らしていたとき
身近にいる友だちと会うことがなにより恐ろしかった
だからこの街に引っ越してきたときに思った
あの人もあの人も果ては両親さえももう誰もいないのだと
俯いて暮らしていた日々に光が差すということ

テレビを見ながらふと電話をかけようとしていたとき
遠く離れれば心配もするようになるのだと苦笑してしまい
お気に入りにも登録されていなかった父の番号を見つけておもう
あるいは母の番号を見つけておもう
家に居れば随分厄介者扱いされたが居なくなればどうなのだろうか

電話口の母はせいせいした風に自分たちの生活がやっと出来ると言った
ああやはり
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