七月の忘れ物/たま
 
卵を抱こうとはしなかった
どうしたの?
死んじゃうよ その卵
雨の日も
途方に暮れた顔をして
抱こうとはしなかった

忘れることは生きることだという
忘れなければ生きることはできないということだろうか
それとも
忘れなければ死ぬこともできないということだろうか

三日目の朝
キジバトはようやく卵を抱き始めた
だいじょうぶ?
無事に生まれるの?
雨はもう降らないけど

午前十一時の夏日の下で
わたしは生きて忘れ物を探している
いつものように
井戸水を如雨露に注いだのはいつの日だったか
早く見つけなければ
わたしの野菜たちが死んでしまう

手繰り寄せた蔓の先に
まっ黒に日焼けしたスイカがあった
六リットルの井戸水を呑みこんでずしりと重い

ああ、おまえだったのか

忘れ物は姿かたちを変えて
十一時の畑で
わたしを探していたのだろうか
二週間後
ヒナは無事に誕生した













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